専門診療

外科手術について

葛西りんかい動物病院では、避妊・去勢手術だけでなく、胸部および腹部の手術、神経外科(脳や脊髄)、整形外科の手術や、腫瘍の切除手術、抜歯や歯石除去、歯周病治療のための口腔手術(抜歯や歯石除去)など、幅広い手術に対応しています。身体への負担をできる限り減らすため、手術用機械を充実させることによって、動物の負担をできる限り減らすように努めています。また、手術部位に合わせた各種鎮痛薬・鎮痛法を使用し、動物にとって痛みの少ない、より安全な手術を心がけております。

得意とする難度の高い手術例

  • 門脈体循環シャント症例に対するアメロイドリング設置術
  • 会陰ヘルニア症例に対する各種整復手術
  • 心タンポナーデ症例に対する心膜切除術
  • 椎間板ヘルニア症例に対する(片側or背側)椎弓切除による減圧術
  • 下垂体腫瘍(下垂体性副腎皮質機能亢進症)症例に対する下垂体切除術
  • 水頭症症例に対する脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)術

全身麻酔について

  • 上記の手術や処置、検査においては全身麻酔を基本としています。
  • 麻酔処置なしでの歯石除去は、超音波スケーラーを用いた歯周ポケットまでの完全な歯石の除去ができない上に、歯の表面に大きな傷をつけてしまい、かえって新たな歯石を付けやすくするため、お勧めしていません。
  • 簡単な検査や処置では、鎮静下にて実施可能な場合があります。
  • 全身麻酔を行う場合には、どんなに短時間の麻酔であっても、長時間の麻酔の場合と同様のステップをとります。“小手術はあるが、小麻酔はない”と言われるほど、麻酔管理は重要です!

外科手術および麻酔処置の流れ

  • Step01
    術前検査

    疾患の有無に関わらず健康診断や血液検査を行い、麻酔薬等を代謝する臓器(肝臓や腎臓)に障害がないか、身体のコンディションに異常がないかチェックすることをお勧めします。(手術前1週間以内の検査結果が有効となります)
    加えて、腫瘍患者や心肺機能に異常が予想される高齢患者では、胸部のレントゲン検査なども必須となります。
    ※肺に転移像が認められる腫瘍患者では麻酔処置はお勧めしません。

  • Step02
    術前管理

    麻酔や手術を行う前日からの準備となります。一般的に、前日の22時から絶食、朝食に事前にお渡しする流動食を飲んでいただいてから、絶水の処置をとっていただきます。
    当日は、なるべく早めに来院頂き、点滴にて水分の補給およびミネラルの調整を行います。
    麻酔処置時に胃内に内容物があると、麻酔下での嘔吐や麻酔覚醒時の誤嚥などの原因となり危険です。

  • Step03
    麻酔導入

    麻酔前投与(余分な生体反射を抑える薬や鎮静薬の投与)を行い、麻酔中の生体の管理をしやすくするとともに、身体が麻酔薬に反応しやすくさせていきます。
    麻酔導入として、短時間型の注射麻酔薬を用いて動物の意識を消失させ、完全な麻酔下におきます。

  • Step04
    手術・処置

    100%酸素および吸入麻酔薬を用いて麻酔状態を維持しながら、手術や各種検査処置を行います。
    この時、最新の生体モニターを用いて、動物の心拍数、呼吸様式、血圧、体温、呼気中及び吸気中麻酔薬濃度、肺換気量、血中酸素飽和度、終末呼気二酸化炭素分圧などをチェックしながら、吸入麻酔薬の濃度を調節します。
    手術や処置に合わせて、各種鎮痛薬を用います。当院では、動物が受けると予想される痛みの強さや部位に応じて、皮下注射による鎮痛剤、麻薬系の鎮痛剤の点滴投与、硬膜外麻酔などを使い分けています。
    手術に用いる器具は、すべてオートクレーブによる135℃の加熱蒸気滅菌を行っております。また、手術にて体内に用いる縫合糸は、最も組織反応性の低い吸収性縫合糸を使用しております。

  • Step05
    麻酔覚醒

    手術および検査終了後、吸入麻酔薬を切り、速やかに麻酔状態から覚醒させます。
    麻酔から覚醒したすべての患者を一定時間ICUにて高濃度酸素室下で状態をモニターします。

  • Step06
    術後管理

    全身麻酔を施した当日は、誤嚥の可能性があるため夜遅くまで絶食を続けます。手術後に入院する患者では翌日まで点滴で全身状態を最適化しています。
    また、処置に応じて抗生剤投与による感染防御や鎮痛薬の追加投与も行います。鎮痛薬を適正に使用した患者では、術後の経過も良好で傷の治りも早くなります。

※疾患による手術治療が必要な場合、避妊手術や去勢手術を行う場合は、患者ごとに麻酔や手術内容を説明させて頂き、ご理解頂いた上で、術前検査の内容や麻酔方法を決定します。
※使用する鎮痛薬の種類を選んで頂くことも可能です。
※皮膚の縫合では、抜糸のいらない皮内縫合(避妊手術では全例実施)を選択して頂くことも可能です。

腫瘍科について

腫瘍症例に対しては、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、内視鏡検査、CTやMRI検査、各種生検(細針吸引生検、Tru-cut生検、骨髄生検など)を用いて、腫瘍の特定ならびに病期の調査を行います。また、その結果をもとに、飼い主様と相談の上、通院もしくは入院により各種治療を行います。腫瘍治療は、手術による外科療法、抗がん剤による標準化学療法(輸液剤や各種薬剤を併用し、極力副作用を抑えて行います)、放射線治療、その他の治療があります。それぞれの治療にはメリット・デメリットがありますので、飼い主様にわかりやすくご説明したうえで一緒に治療方針を決めながら進めていきます。

外科治療

外科療法

外科療法とは、手術を行って腫瘍を切除する方法です。腫瘍を即座に取り除くことができるのは、多くの治療が存在しますが、外科療法のみです。腫瘍が他に転移しておらず周囲への浸潤が少なければ根治することも可能です。デメリットとしては、近傍の重要臓器などが欠損する可能性があることや、手術による出血や麻酔のリスクなどがあります。

小さな腫瘤(イボ)の切除

レーザー治療

皮膚表面の小さな腫瘍であれば、麻酔をかけずに短時間で処置することができるため、他の疾患があったり、高齢などの理由で、麻酔にリスクのあるワンちゃんやネコちゃんでも治療することができます。腫瘤の大きさによっては治療を何度かに分けることがありますが、多くの場合、1回の処置で治療が終わります。また腫瘤ができた箇所によっては、局所麻酔が必要となるケースもあります。

凍結治療

凍結治療とは、腫瘤やイボを急速凍結して除去する治療方法です。専用機器の先端から-89℃の亜酸化窒素を噴出して、腫瘍の“凍結→融解”を繰り返すことで行います。約一週間程度でカサブタができて、自然に剥がれ落ちます。麻酔をかけずに治療することができるため、動物の負担を最小限にとどめることができますが複数回の処置を繰り返す必要があります。

抗がん剤治療

抗がん剤治療について

抗がん剤治療とは、投薬によってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする治療方法です。抗がん剤治療は、主に全身療法が必要な際に行います。投薬は内服だけでなく、点滴や注射でも行います。副作用について心配される飼い主様が多くいらっしゃいますが、近年は吐き気などをやわらげる薬や、白血球の減少を抑える薬も開発されており、できるかぎり動物に負担をかけることなく、投薬することができるようになってきています。動物の状態や飼い主様のお考えを伺いながら進めていきますので、ご安心ください。

低用量持続化学療法

低用量持続化学療法とは

従来の標準的な抗癌剤を用いた化学療法は、患者が耐えられる範囲でなるべく大量の抗癌剤をガツン!と使用することで抗腫瘍効果を得ようとするものでした。しかし、この方法では副作用も強く出てしまい、飼い主様が治療の継続を断念してしまうような事態もありました。そこで、考えられたのが本治療法で、副作用が見られない程度の少量の抗がん剤をメトロノームのように規則的に頻回に継続投与する方法になります。

放射線治療

放射線療法

放射線を腫瘍に照射する方法です。放射線療法は専用の設備が必要なため、大学病院への紹介治療となります。複数回の麻酔が必須となりますが、腫瘍の種類や部位によっては、非常に有効な治療になります。

その他の治療

免疫細胞治療

免疫細胞治療とは

一般に健康な動物でも1日に数千個の異常細胞(腫瘍になるかもしれない突然変異細胞)が発生していると言われていますが、正常な免疫システムがはたらくことで排除されており、それらが“がん”として発症することはほとんどありません。しかし、この免疫システムの監視をすり抜けて分裂・増殖するような異常細胞があると、“がん”として発症してしまいます。がん細胞の中には、免疫細胞の増殖や攻撃を抑えこんでしまう力を持つものもあり、一度発症した“がん”を免疫細胞の力で抑えこむのは難しくなってしまいます。そこで考えられたのが、動物の体内の免疫細胞を増殖・強化させることによって、がん細胞を抑えこむ免疫(細胞)治療です。

本院の免疫細胞治療について

免疫治療では、種々の方法が開発されているところですが、本院で実施可能な治療法は、腫瘍細胞を攻撃する主役となるTリンパ球を体外に取り出して、強化・培養した後に体に戻すことで腫瘍を攻撃する活性化自己リンパ球療法と、免疫細胞がはたらく際の司令塔となる樹状細胞を体外で培養して体に戻す樹状細胞療法を行うことができます。それぞれの療法で実施できる条件や腫瘍に対する効果が異なりますので、ご相談頂ければと思います。また、自身の研究により、活性化自己リンパ球療法では、鎮痛効果や安心感をもたらすβ-エンドルフィンが多量に分泌されることが分かりました。このエンドルフィンが、本療法を用いた動物で見られる“腫瘍の痛みから開放され、まるで若返ったように感じる”効果の一因ではないかと考えられます。この作用は、本療法による抗腫瘍効果だけでなく、終末期医療における患者のQOL(生活の質)の改善に大いに役立つものと考えています。

終末期医療

免疫細胞療法、低用量持続化学療法を行ったとしても改善の見込みが無い患者に関しても終末期医療として、痛みの緩和や、食餌のできない患者への各種給餌法を提案し、飼い主様の負担が少なく、かつ患者が安らかな最後を迎えられるようケアします。
※腫瘍治療は高齢者が多く、来院自体が動物の負担になる場合もございます。実施可能な処置は往診でも承りますので、ご相談ください。